目次

1.巻頭言          2.支部長及び社員選挙結果報告

3.支部大会総会報告*   4.支部大会プログラム

5.支部大会研究発表   6.支部大会 講演

7. 支部大会シンポジウム 8.懇親会  

9. 新入会員・転入会員
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 *「3.支部総会報告」の「資料」をご覧になりたい方は、「3.支部大会総会報告」の中の「もっと読む」をクリックして下さい。

<定例研究会は 2011_25a に記載しています。合わせてご覧下さい>



講演

4)講演: 「大学英文法の構築を目指して」

 岡田 伸夫(JACET副会長・大阪大学)

(要旨)
英語語運用能力を育成するには4技能の基盤である文法力を身につける必要があります。しかし、文法力だけでコミュニケーションできるわけではありません。そのことを踏まえると、近年の中高の授業でコミュニケーション活動が中心になってきていることは間違いではないと思います。しかし、コミュニケーション能力の育成を目指す一方で、コミュニケーションを下支えする文法力に対する認識が希薄になったために、確かな文法力を身につけるに至っていないという現実は皮肉としか言いようがありません。
大学の英語の授業で学生が確かな文法力を身につけて大学に入ってきていることを前提にして授業をし始めると、とたんに立ち往生してしまいます。さほど文法能力がなくてもできる表面的なコミュニケーション活動にシフトするか、慌てて高校英文法を復習することになります。しかし、ひとたび大学レベルにふさわしい知的内容のコミュニケーション活動につなげようとすると、やはり高校英文法より一段上の大学英文法が必要になりますし、大学英語教育の最初から最後まで高校のremedial grammarを教えるわけにもいきません。大学生に一段上の大学英文法を教えなければならないことは当然のことです。
そうは言っても、拠り所とすべき大学英文法はどこにあるのでしょうか。高校でも大学でも、高校英文法が英文法双六の上り、言い換えると、高校英文法が学ぶべき英文法のすべてであるかのような受け取り方がなされているのが現実ではないでしょうか。大学英語教育が、高校レベルの学習英文法の内容とその指導法に全面的に依拠すると、結局は、大学生に大学英文法を提供することができないばかりでなく、現行の高校英文法の「意味」のない、形式中心の文法を教条的に指導するだけになってしまい、大学生にふさわしい英語力を開発することにはつながらないだろうと思います。
このジレンマを克服するには、中高の英語の授業で、中高にふさわしい文法内容を適切な方法で教えることと、近年の科学的英文法研究の成果を大学英文法に取り入れ、大学英文法を豊かにし、それを適切な方法で教えることが不可欠です。
ここで注意しておかなければならないことがあります。科学的英文法研究は、必ずしも学生の英語コミュニケーション能力の育成を直接の目的にしているわけではありません。また、科学的英文法研究の内容は、抽象度が高かったり、逆に、重箱の隅を突く些細なものであったり、必ずしも実際の英語使用の役に立つわけではありません。私たちがしなければならないことは、多様な英文法研究に目配りし、その中から目の前の自分の学生に必要な知識を拾い出し、それを学生が消化しやすい形に加工して提供することです。このような認識を持った大学英語教員が増えてくれば、大学英文法教育の質は確実に向上するでしょう。また、このような認識を共有する大学英語教員が協力し合って大学英文法の構築に向かえば、必ず大学英語教育が質的に改善されてくるはずです。